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第069-1話 噂の出処

Author: 百舌巌
last update Last Updated: 2025-03-24 11:09:03

アオイのマンション。

 翌日、ディミトリは学校をサボってしまった。シンイェンの父親に会う必要があるからだ。

 チャイカの方が片付いたので、残りは中華系の組織だけだ。外国に出かける前に片付ける必要がある。

(事務所の場所を聞き出して見張りを頼めないだろうか……)

 アオイのマンションに昼頃に行くと、シンイェンの父親は既に到着していた。飛行機をチャーターしてやって来たのだそうだ。

 そして、ディミトリを見かけると深々とお辞儀をしてきた。ディミトリも釣られてお辞儀をした。

『こんにちわ。 林克良(リン・ケリアン)と言います……』

『娘を窮地から救ってくれて有難う!』

『貴方は大変な恩人だ。 私に出来ることがあれば何でも言ってくれ』

 父親はディミトリの顔を見るなり早口の中国語で話し始めた。

 その様子にタジタジになってしまったディミトリ。

『よろしく タダヤス』

 自分を指差しながら、辿々しい中国語で名乗るのが精一杯だったようだ。

 シンイェンはニコニコしながら両方の顔を見比べていた。

『英語の方が良いかね?』

『ええ、そちらの方が具合が良いのでお願いします』

 その様子を見たケリアンは英語で話し掛けてきた。ディミトリとしても英語の方が有り難かった。

 アオイ姉妹はディミトリが流暢な英語を話すのにちょっとビックリしていた。お互いに顔を見合わせている。

「じゃあ、私達は食事の用意するわね……」

 もっとも、彼に驚かされるのは初めてでは無い。なので、他の用事をすることにしたようだ。

「不要な外出は避けたいのでお願いします」

『私も手伝う!』

 料理をすると言うとシンイェンは自分も手伝うと言い出した。

 三人は台所へと向かっていった。

『彼女らには知られたく無いのだろう?』

『はい、詳しくは知られたくないですね……』

『そうだな…… 私なら詳しく知った人間は始末してしまう』

『……』

 やはり同じ種類の人間なのだなとディミトリは思った。

 リスクは可能な限り減らすという考えが無いと、あの国では生き残っていけないのだろう。

『貴方の仕事は非合法なものですか?』

『それは見方によるよ。 私は日本から手に入れた中古品を売っているだけさ』

 ケリアンは肩を竦めて返事した。

『いや、仕事内容を非難する気は無いですよ』

 もっとも、ディミトリは非合法であるかどうかは気にしていない。彼の立
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